迷子になった雪女

 

 山で狩りをしていた雪女は、雪が激しくなってきたので家に帰ることにしました。

いつも山へ行くときは、ラジオで天気予報を聞いてから出かけましたが、電池が切れてその日は聞けなかったのです。

「今日の獲物は山鳥2羽だけど、仕方がないわ」

 帰り道で、ひどい吹雪になり、1メートル先も見えなくなりました。

「どうしよう、日が沈んでしまうわ」

 そのとき、雪道を走ってくる一台の車に気づきました。

「よかった、あの車に乗せてもらおう」

 車は、吹雪の中をゆっくり走ってきました。

 突然、視界に白い和服姿の中年のおばさんが見えたので急ブレーキを踏みました。タイヤが滑り、もう少しで横の田んぼに落ちるところした。

「危ねーじゃねえか。バカヤロー」

 それはタクシーで、お客をこの村まで送ってきた帰りでした。

運転手は、こんな真冬にコートも着ないで、夏の浴衣で歩いているおばさんにびっくりしました。

「お願いします。乗せてください」

雪女はずかずかと車の中に入ってきました。

「乗せてやってもいいけど、お金持ってるのかい」

「お金はないけど、山鳥を差し上げます」

雪女は、かちかちに凍った山鳥を見せました。

「それ、どうやって料理するんだい」

「羽を全部むしってから、内臓を取り出して蒸し焼きにすればいいんです」

「ニワトリみたいにやればいいんだな」

「だいたいそうです」

「鍋にもあうかな」

「もちろん、鍋に入れても美味しいですよ」

そんなわけでタクシーに乗せてもらいました。

「で、どこまで送るんだい」

「北の方角へ5キロほど行った山の洞窟です」

「そんな所に道路が走ってるのかい」

「細い道が通っています」

「雪で行けないよ」

「途中まででいいんです」

「じゃあ行ってみるか」

 タクシーは吹雪の中を走って行きました。

運転しながらうしろからひんやりと冷気が流れてくるので暖房を「強」にしました。

視界が悪く、雪も強まってきました。

「そろそろ山道だ。だいぶ積雪があるな」

「あと少しのところで結構です」

「じゃあ、500メートル行ったところで降ろすよ」

「ええ」

 ところが雪がさっきよりもひどくなり車はとうとう動けなくなりました。

「ダメだ。チェーン巻かないと」

「手伝いますよ」

「そうかい、じゃあ、後輪の2本巻いてくれないか」

 雪女は外に出ると作業を手伝いました。

「これで大丈夫だ。さあ、行こうか」

 吹雪の中をタクシーは登っていきました。

「ここで結構です。洞窟は近くですから」

「そうかい、じゃあ、気をつけて」

 雪女は雪の中に消えて行きました。タクシーは山を降りて行きました。

ところが途中で、さっきの雪女にばったり出会ったのです。

「どうしたんだね」

「場所を間違えました」

「え、ここじゃないのか」

 雪で視界が悪くて場所を間違えたそうです。

仕方なく、タクシーは雪女を乗せてまた山を登って行きました。でも吹雪のためなかなか見つからず、一晩中、山の中をさまよいました。

 そんなことで、洞窟を見つけたのは明け方近くでした。

すっかり疲れてしまったタクシーの運転手は、洞窟の中で雪女にお茶を入れてもらい、しばらく仮眠をとりました。

 

 

 

 

 

 

 

(未発表童話です)