空飛ぶ公衆電話

 

 その公衆電話は国道沿いの公園のそばにあった。

 ずいぶん汚れていてペンキがところどころ剥げていた。

 でも1か月前まではここには草しか生えていなかった。無断で誰かが置いたのだ。

 ある日、通行人が電話をかけにきた。

「よかった、スマホの電池が切れたんだ」

 ドアを開けて受話器を取り、お金を入れてダイヤルを回した。

 突然、公衆電話がガタガタ揺れはじめた。

「な、なんだ。これは」

 エレベーターに乗ったような感じだった。すいーっと公衆電話ごと空の上に吸い込まれた。

 ガラスの外を見た。近くに雲が浮かんでいた。振動は収まったが、公衆電話は通行人を乗せて東の方へ飛んで行った。

 山を越えて海が見えてた。

「すごい、まるで飛行機だ」

 海の上を飛んでいると、またガタガた揺れはじめた。

「たいへんだ。高度が下がっていく」

 料金箱にランプが埋め込まれていてピカピカ光っている。

 無意識に100円硬貨を入れた。助けを呼ぶためだった。

 するとまた高度が上がりはじめた。ゆれも収まった。

「そうか、お金を入れると飛び続けるんだ」

 一日中飛んでいると、やがて公衆電話は帰りはじめた。町が見えてきた。もう夜になっていた。

 公衆電話は公園のもとの場所へ着陸した。

「やれやれ、でも不思議な旅行が出来た。みんなに教えてやろう」

 ある日友達を連れてやってきたが、そこに公衆電話はなかった。

「どこへいったんだろう」

 ある日この公衆電話はとなり町の小学校の近くに立っていた。

 通行人がやってきた。

「こんなところに公衆電話なんてあったかな」

 中を覗いてみた。

「せっかくだ、実家に電話をかけよう」

 お金を入れてダイヤルを回した。

 ガタガタと公衆電話が大きく揺れはじめた。

「なんだ、どうなってるんだ」

 通行人を乗せて空へ飛びあがった。そして西の方へ飛んで行った。

  山のふもとに大きな湖があった。

 公衆電話は、急降下してバシャンと大きな音を立てて湖の中へ潜っていった。

 まるで潜水艦だ。湖の中を走り回ってまた空の上に登って行った。

「驚いた。水の中でも平気なんだ」

 丸一日、空飛ぶ公衆電話に乘って空の散歩を楽しんだ。そして夜になって帰ってきた。 

「いやあ、面白かった、みんなに教えてやろう」

 その噂は町中に広まった。

「一度乗ってみたいな」

 そんなことをいう人が多くなった。

 みんな不思議な公衆電話を捜し始めた。でもなかなか見つからなかった。

 町はずれに一人の発明家が住んでいた。いつも地下の実験室にこもって何か作っていた。地下室はまるで工場だった。いらなくなった古い公衆電話が部屋の隅にたくさん置かれていた。

 発明家は数年前からこの作業に没頭していた。つい先日、第1号を完成して、飛行実験を繰り返していたのだ。

「さて、テスト飛行は無事に終わった。30台も作れば相当の稼ぎになる。自動販売機のように毎日稼いでくれる」

 発明家は昔からUFOの研究をしていたのだが、あるときそれを利用して空飛ぶ公衆電話の制作を思いついたのだ。

 半年もすると、空飛ぶ公衆電話は予定通り30台に増えた。

「さて全国に設置しよう」

 トラックを借りてきて、公衆電話をあちこちに置いた。

 発明家が予想したとおり、公衆電話は町の人に使われて相当の売り上げをあげた。でも心配なことがあった。

 故障して墜落したらどうしよう。考えながらいいことを思いついた。

「緊急用のパラシュートを取り付けよう。これだったら万一のとき大丈夫だ」

 すべての公衆電話にパラシュートを取り付けた。

 問題が解決したので、それからも増産していろんな町に設置し、数年間暮らしに困らないくらい大儲けをした。でもある日発明家は逮捕されてしまった。

 航空法違反と違法設置物違反の罪だった。

 刑期が終わるまで、みんな乗れなくなった。

 

 

(オリジナルイラスト)

 

 

(未発表童話)