紅茶とレモンとケーキ

 

 ある朝、紅茶とレモンがこんな話をしていました。

「今日は、友だちがやってくる日だ。甘い匂いをぷんぷんさせて、お皿の上にどっかりとのるのさ」

「イチゴなんかを頭にのせて、すました顔してやってくる」

「大人も子供も、そいつにゃ、目がないんだ。すぐにぱくつくんだから」

「飼い犬だって、よだれをたらしてそいつを観てる」

 となりの部屋では、この家の主人がお話を作っています。今書いてるお話は、「お菓子の国の大工さん」。

 お話を書き終えたら、ケーキ屋さんへ行くのです。週に一度、お話が出来たら必ずケーキを食べるのです。

「いまどこまで書けてるのかなあ」

 紅茶とレモンはお話が読みたくて仕方がありません。

 午後になってから、主人はお話を書き終えてケーキ屋さんへ行きました。そしてイチゴのケーキを買ってくると、紅茶を沸かし、レモンを入れてパソコンの画面を観ながらケーキを食べるのです。

 紅茶とレモンとケーキは、食べられる前に、お話を読まなければいけません。

 お腹の中は退屈なので、面白い話が必要なのです。それに、朝、お腹に入ったトーストやハムエッグたちにもお話の続きを話してやらないといけないからです。

 主人は、気になるところを何度も直しながら読んでいきました。みんなもパソコンの画面をじっと観ています。

「先週書いてたお話よりも面白い」とか「登場人物がユニーク」だとか小声が聞えてきます。

 やがて夕方になり、お話は無事に出来上がりました。

 紅茶もレモンもケーキもすっかり読んでしまい、満足しながらお腹の中へ入って行きました。

 

 

 

 

(未発表童話です)