いろんな実がなる木

 

 植物学者で発明家のK、M氏は、長年の研究の末、いろんな実がなる木を作った。それは果物だけではない、野菜もできるのだ。

「ああ、この木が一本あれば毎日の生活に困らない」

 家の中で育てれば一年中収穫できる。

 半年後には、短期間で成長させる肥料も完成させた。

「今年の学会に発表しようかな」

 K、M氏は満足そうにつぶやいた。

 ある日友人の魚類学者で発明家のH、Y氏がやってきた。

「とうとう出来たんですね」

「ああ、でも味の方はわからない」

「じゃあ、一緒に食べましょう」

 二人は食べた。

「美味い。成功ですよ」

「よかった、長年の苦労が実った」 

 友人は祝福して帰って行った。でも、H、Y氏は心の中はそわそわと落ち着きがなかった。

 家に帰るとすぐに研究室に入った。研究室の中には大きな水槽がいくつも置かれていた。

「さあ、おれも早く完成させよう」 

 H、Y氏が研究しているは、水槽の中でどんな魚でも育てることが出来るものだった。いや、魚だけではない。タコやイカなどの軟体動物も育てることが出来るのだ。方法は簡単だった。卵を入れてさえ置けばいいのである。でも短期間で成長させる薬の開発はまだだった。

「ああ、K、M氏が完成させた肥料の秘密が知りたい」

 ある日いいことを思いついた。

「そうだ、明日はK、M氏の誕生日だ。ウオッカを飲みながら誕生日を祝ってやろう。酔いつぶれて眠ったあと、研究室に忍び込んで実験ノートを覗いて観よう」

 翌日、電話を入れてからK、M氏の家に行った。

「ありがとう。研究が忙しくて誕生日のことなんかすっかり忘れていたよ」

 その夜はポーカーをしながら一緒に酒を飲んだ。カードをめくりながら会話は研究のことに移っていった。

「先生の肥料はずいぶん効果があるんですね」

「いや、まだ完成品とはいえない。でもあの肥料のおかげで3倍~5倍は早く収穫できるようになった」

 話しながらK、M氏はあくびをはじめた。実はウオッカに睡眠薬を入れておいたのだ。

 K、M氏がすっかり眠ってしまうと、H、Y氏は、研究室に入り実験ノートを探した。ようやく見つかると、重要な部分を書き写した。

「ああ、これで肥料の成分がわかる。これをヒントにして作ろう」

 朝になり、H、Y氏は帰って行った。

 何も知らないK、M氏は二日酔いの頭でいつもの研究をはじめた。

 1ヶ月後、短期間で成長させる薬を完成させたH、Y氏は、さっそく試すことにした。いくつもの水槽の中に薬品を入れていった。

「ああ、明日の朝には効果が現れるはずだ。楽しみだ」

 思った通りだった。翌朝水槽の中を観ると、卵がかえって10センチくらいの魚が泳いでいる。ほかの水槽を観ても同じだった。

 ある日、K、M氏から電話があった。

「H、Yくんか。いま学会の研究発表会場にいるんだが、今度の研究がどうやら最優秀研究として学会誌に掲載されるそうだ。長年の研究の成果が認められるわけだ。完成論文はあとから作って送るよ。学会が終わったら、四、五日こちらで遊んでくるよ」

「ほんとうですか、それはおめでとおございます」

 H、Y氏は口ではそんなことをいったが、本心は先を越されてガッカリだった。

「ああ、間に合わなかった。せっかくの研究が」

 ところが、それから五日たった夕方のことだった。K、M氏からまた電話があった。ずいぶん慌てたような声だった。

「すぐに来てくれ」

 駆けつけてみると、理由がすぐに分かった。

 K、M氏の家の屋根から巨大な木が突き抜けて立っており、窓をやぶって枝が外へ伸びている。枝には人間ほどの大きさの果実や野菜がぶら下がっていた。

「留守の間に、急激に成長したんだ。これじゃ完成論文を提出できない」

 それを聞いて、H、Y氏も思い出したように慌てて家に帰って行った。

 

 

 

(オリジナルイラスト)

 

 

 

 

(未発表童話)