楽器が好きなこども

 

 楽器が大好きなこどもがいました。

ハーモニカやリコーダーはもちろんのこと、キーボードやギターもじょうずに演奏することができました。

 ある日、町にマーチングバンドがやってきました。

楽員たちは、真っ赤な制服と帽子をかぶり、ピカピカの楽器を持っていました。

 バトンを持った楽長を先頭に、ジョン・フィリップ・スーザの「ワシントン・ポスト・マーチ」や「キング・コットン・マーチ」を演奏しながら歩いていました。

 男の子もランドセルの中からリコーダーを取り出してあとからをついて行きました。

大通りを歩いてから、次は繁華街を通り、大きな公園のそばまでやってきました。

「みんなどこまで行くのかな」

男の子はぼんやり考えながら歩いていました。

 やがて大きな鉄橋が見えてきました。そのうちに空からぽつり、ぽつりと雨が降ってきました。

「みんな、鉄橋の下で休憩だ」

 楽長の指示で、みんな鉄橋の下へ大急ぎで走って行きました。

雨はまたたくまに、どしゃぶりになりました。

 鉄橋の下で雨宿りをしながら、男の子は楽員たちに話しかけました。

「おじさんたちは、どこまで行くの」

「知らないなあ。行先は楽長だけが知っているよ。世界一周するかも知れないな」

「じゃあ、どこまでも一緒について行くから」

「ああ、いいよ。ついてきなよ」

話をしていると、やがて雨は上がりました。

「では、出発ー!」

 楽長の合図で、マーチングバンドはまた演奏しながら歩きだしました。

 川沿いの道を歩いていると、陽が射している雲の切れ間から、きれいな虹が見えました。

 不思議なことに、虹の橋の先っぽが、川のそばまでたれていました。

「今度はあの虹の橋を渡って行こう。それから雲の上を歩いて行くんだ」

 バトンを振っている楽長のあとを追って、マーチングバンドはついて行きました。男の子も一緒について行きました。

 やがてマーチングバンドは虹の橋を渡りはじめました。

しばらくのあいだ、空からは楽しい演奏が聴こえてきましたが、やがてみんな雲に隠れて見えなくなってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(自費出版童話集「本屋をはじめた森のくまさん」所収)