回転木馬の夢

 

 だれもいなくなった夜のゆうえんちです。回転木馬は、みんなすやすやと眠っていました。

 すやすや、すやすや。

 しばらくしたとき、一頭の木馬が目をさましました。

「ああ、きょうもよくはたらいたなあ」

 木馬は、うーんと、のびをしました。

「だけど、まいにちここにいるだけじゃ、つまらないや。どこかへさんぽにいきたいなあ」

 そのとき、空のうえから声がしました。

「ぼくが、つなをといてあげようか」

 声をかけたのは、夜空に輝くひとつの星でした。

「ほんと、じゃ、といてよ」

 すると、つながれていた首のひもがはずれて、木馬は自由になりました。

「わあ、ほんとうだ。うれしいな」

「朝までにはかえっておいでよ」

「うん、やくそくするよ」

 木馬は、そのばから出て行きました。

 カッタコト、カッタコト、

 やがて、町の公園へやってきました。

公園のなかには、ともだちの木馬たちが眠っていました。

「みんな起きて、ぼくと遊ぼうよ」

 木馬たちは、目をさますと、

「だめだめ、ぼくたち、みんなつかれているから。きょうは、たくさんこどもたちが遊びにきたからね」

「ああそうなの、つまんないな」

 木馬は、公園から出て行きました。

 そして、町の商店街へやってきました。いっけんの洋服屋さんのショーウインドーのなかに、かわいい洋服を身につけた、こどものマネキン人形が眠っていました。

「ぼくとさんぽにいかないかい」

 マネキン人形は、目をさますと、

「だめだよ。ここからでられないもの」

 木馬は、がっかりしましたが、

「だったら、ぼくが、そこからでられるようにしてあげるよ」

といって、夜空を見上げました。

「お星さま、おねがいします。マネキン人形くんを、外へだしてあげてください」

 すると、ひときわきらりと星が輝いたかとおもうと、木馬のせなかに、マネキン人形がのっかっていました。

「わあ、おどろいた。お星さまありがとう」

 そして、木馬は、マネキン人形をのせてはしり出しました。

 カッタコト、カッタコト、

だれも歩いていない商店街をはしりながら、マネキン人形もうれしそうです。

「ヤッホー、きもちいいな、ヤッホー、ヤッホー」

 そして、木馬は、商店街をとおりぬけると、大きな橋がかかっている町外れの河原へやってきました。

 木馬は、のどがかわいていたのか、川の水をゴックン、ゴックンとおいしそうにのみました。

「ああ、つめたくておいしいや」

「ねえ、こんどはどこへ行く」

「じゃ、こんどはあの橋をわたってとなり町の公園へ行ってみようか」

「うん、いいよ」

 木馬は、またはしり出しました。橋のそばに踏切があり、そこを通ってしばらく行くと公園が見えてきました。

 公園のなかに入ると、キリンやぞう、それにカバやクジラのかたちをしたすべり台がありました。

「あのすべり台からおりてみないかい」

「うん、いっしょにおりてみようか」

 木馬とマネキン人形は、すたすたとすべり台の階段をのぼって行きました。そして、なんかいもすべり台からおりて遊んでいました。

 一時間も遊んでいると、やがて引き返すことにしました。

踏切の前までやってきたときでした。突然、踏切のけいほう機が鳴り出しました。木馬はおどろいた拍子に、鉄道せんろに、足をつまずかせてしまいました。

「わあ、たいへんだ。足がせんろにはさまって、ぬけなくなっちゃった。どうしよう、どうしよう」

 やがて、やこう列車が、すごい音をたてながら向こうからはしってきました。

 ガッタンコー、ガッタンコー、

 みるまに、列車は近づいてきました。

「だれか、たすけてー」

 木馬と、マネキン人形は、どうすることもできずに、ただじっとしたまま目をつむっているだけでした。

「ブーーーブーーーブーーーーー!」

 やこう列車は、汽笛を鳴らしながらせまってきました。

そのときでした。耳もとで、だれかの声がきこえました。

「もうとっくに朝だよ。ゆうえんちは、はじまってるよ」

 そう声をかけたのは、となりにいる木馬くんでした。

「なんだ、ぼくは夢を見てたのか」

 木馬は、目をこすりながら、にぎやかなゆうえんちのなかを見わたしました。

やこう列車の汽笛だとおもっていたのは、ゆうえんちのなかを走っている、おもちゃの電車の汽笛でした。

 木馬は、よく晴れた青い空を見上げました。

そこには夢のなかで見た、あの星のすがたはありませんでした。そして、マネキン人形のすがたもどこにもありませんでした。

 しばらくすると、向こうからたくさんのこどもたちが、木馬たちの方へはしってきました。

 

 

 

 

 

 

(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)