山のゆうれいスタンド

 

 夏のことだった。故郷へ帰省するため車で高速道路を走っていた。ところが途中事故のために通行止めになっていた。

「困った。ラジオで交通情報を聞いておけばよかった」

 しかたがないので、ぜんぜん知らない町の国道へ降りて帰ることにした。カーナビが付けていないので道路地図たよりに走るしかなかった。ほとんど山道ばかりの所だった。道を間違えたりしているうちに、ガソリンが心配になってきた。

「こんな上り坂ばかり走っていたら、あと50キロも走れない」

 時計を見ると、もう夕方の6時を過ぎていた。もうじき日が沈む。それまでにガソリンスタンドを見つけないといけない。でもこんなところにあるだろうか。

 薄暗い峠道を走っていると、周りが墓地ばかりの所へやって来た。火の玉でも飛んできそうだった。行く手にぼんやり明かりが見えた。ガソリンスタンドの看板が見える。

「よかった。あそこで給油しよう」

 スタンドの前までやってきた。ずいぶん古びたスタンドだった。壁は剥がれ、給油機はサビついていた。

「だれも出てこないな」

 しかたがないのでクラクションを鳴らした。

 そのときぞっとした。助手席の窓の外に人が立っている。青白い顔をした浴衣を着た女性だった。

「給油ですね」

 ずいぶん淋し気な声だった。

「レギュラーガソリンを満タンたのむよ」

 女性は給油機をセットして、ガソリンを入れ始めた。

「よかった。これで故郷まで安心して帰れる」

 思っていると、前面のフロントガラスと、後ろのリアガラスに女性の姿が映っていた。雑巾を持ってガラスを拭いている。この女性たちもずいぶん青白い顔をしている。ゴミがあったので捨ててもらった。  

 満タンになったので現金で支払った。

「さあ、出発だ」

 女性たちに見送られて車を走らせた。ふとバックミラーを見たときだった。

女性たちの身体が半分しか見えないのだ。上半身は見えるのだが、下半身がぼやけて見えなかった。

「幽霊だー!」

 気味が悪くなりアクセルを強く踏み込んでその場からすぐに立ち去った。

 

 

 

(オリジナルイラスト)

 

 

 

 

(未発表童話)