ロバにのった床屋さん

 

 ならず者に店をつぶされて、仕事ができなくなった床屋さんがロバにのって広い荒野を旅していました。

お金も取られたので、町のホテルにも泊まれません。持っているものといえば、寝袋と水筒と、商売道具のハサミ、髭剃り用のナイフ、それにタオルと石鹸だけでした。

「ああ、とんだ目にあったな。命はなんとか助かったが、もういちどお店を出したいなあ」

 ある日、木陰で休んでいると、一本のサボテンが声をかけてきました。

「お願いがあるんですが」

「なんだね、お願いって」

「ヒゲがずいぶん伸びたんで、剃ってくれませんか」

「ヒゲじゃなくて、トゲだろ」

「そうです。トゲです。お願いします」

「どうして私が床屋ってわかるんだい」

「ロバの背中に、床屋の道具が見えますから」

「ああ、そうだった。わかった、剃ってあげよう」

 床屋さんは、商売道具を取り出すと、石鹸をつけてサボテンのトゲを剃ってあげました。

きれいに剃り終わったあとは、シェーブローションを付けてあげて、なんどもサボテンの肩をほぐしてあげました。

 いままで硬くてかちかちだった肩もほぐれて、サボテンはとても喜びました。

 となりで見ていたサボテンたちも、

「わたしのも剃ってくださいよ」

といったので、床屋さんは順番にみんなのトゲを剃ってあげました。

 翌朝、床屋さんが旅立ったあと、この土地のインディアンの一団が、サボテンのそばを通りかかりました。

「みんなすっきりした顔をしてるな。すべすべの皮だ」

「ええ、きのう腕のいい床屋さんに剃ってもらったんです」

「その床屋はどっちへ行った」

「今朝、北の方角へ向けて歩いて行きました」

 インディアンの一団は、すぐにあとを追いかけて行きました。

そんなことなど知らない床屋さんは、ロバに乗ってのんびりと歩いていました。

 やがてインディアンたちが追いついて、床屋さんを捕まえて、自分たちの部落へ連れて行きました。

床屋さんは、縄でぐるぐる巻きに縛られて、テントの中に入れられました。

「やれやれだ。ならず者の次はインディアンか。おれもついてねぇな」

 しばらくして、この部落の酋長がやってきました。

 「おい、おまえが腕のいい床屋か」

「腕がいいかどうか知りませんが、床屋です」

「じゃあ、わしの髪とヒゲを剃ってくれ」

 断って、頭の皮を剥がされて殺されでもしたら大変なので、

「わかりました。じゃあ、さっそくいたしましょう」

 さっそく、仕事をはじめました。

チョキチョキと軽快な音させて、きれいに髪を切ってあげました。

仕上げに満足した酋長は、みんなの髪も頼むと床屋さんに命令しました。

 みんなも仕上がりに満足して、部落の中に床屋さんのお店を作ってくれました。

 ある日、いつかのならず者の一味が、この部落のそばを通りかかりました。ちょうどその日は、インディアンの男たちはみんな山へ狩りに出かけていました。

川では、インディアンの娘たちが、おしゃべりしながら洗濯をしていました。

 娘たちを見つけたならず者たちは、にこにこ笑いながら、

「親分、若くて可愛い娘ばかりですね。ぶんどっていきましょう」

「よーし、みんな飛びかかれ」

 ならず者は、娘たちのいる方へ近づいて行くと、悲鳴をあげて逃げ回る娘たちを捕えて馬に乗せました。

その悲鳴を聞きつけたのは、店で昼寝をしていた床屋さんでした。

 川へ行ってみると、むかしじぶんの店をつぶしてお金を奪って行ったならず者たちでした。

「ちくしょう。こんどは娘たちに手を出すつもりだな」

 床屋さんは、店に戻ると、ライフル銃をもってきました。

バーン、バーン、銃声がこだまして、ならず者たちは、ばたばたと馬から落ちました。

「どうか、みのがしてくれ」

 親分と子分の何人かはかすり傷をおっただけですみました。

床屋さんはならず者に、二度とここへはやって来るなという条件で助けてやりました。

 夕方になって、インディアンの男たちが狩りからもどってきました。

娘たちから、今日の出来事を聞いて、インディアンの男たちはみんなとても喜びました。

 酋長も満足して、自分の娘を嫁にやろうといってくれました。ひとり者だった床屋さんは大喜びでした。そしてこのインディアン部落でいつまでも楽しく暮らしましたとさ。

 

 

 

 

(つるが児童文学会「がるつ第37号」所収)