天国への長い階段

 

 天寿をまっとうして、天国の長い階段を登って行くふたりのおじいさんがいました。

「やれやれ、天国はずいぶん遠いところにあるんだな」

「ああ、向こうは雲ばかりで、何も見えない」

「どおれ、あの階段のところで一休みしよう」

 ふたりのおじいさんは、その場所へやってくると階段の上に腰を下ろしました。

「ずいぶん登ってきたな。わしらが暮らしていた家がずいぶん小さく見える」

「よくあんな小さな家で長い間暮らしてきたもんだ。きっと天国には、大きくてりっぱな家がたくさんあるに違いない」

「お茶でも飲むか」

「ああ、飲もう」

 持ってきた水筒を取り出して、コップにそそぎました。

「でも、なんだなあ。天国へ行くのにこんな長い階段を登らされるなんて夢にも思っていなかったな」

「そうだなあ、エレベーターかエスカレーターで簡単に行けると思ってたのになあ」

「こんなことだったら、体力のある若い時に死んだ方がよかったな」

「ああ、ジョギングしながらでも登れたなあ」

 一休みがすんでから、またおじいさんたちは階段を登っていきました。

 しばらくしたとき、雲の下から気球が登ってきました。

「ゴンドラの中に人が乗ってるな」

「どこかで見たことがある人だな」

「思い出した。毎日、町内のドブ掃除や草刈りをひとりでやってた人だ」

「そうだったな、誰もやらない善いことを長年やってた人はああして楽に天国へ行けるんだな」

「わしなんか、いつもさぼっていたからなあ」

 すると、あとから別の気球が登ってきました。

「あれは誰だろう」

「ああ、あの人はアフリカへ行って医療の仕事をしていた人だ。エボラ出血熱の治療をしてたくさん現地の人たちを救った人だ」

「おれたちには絶対できないことだなあ」

「世の中で人の役立つことや、何かに貢献した人は、気球で天国まで連れて行ってもらえるんだ。うらやましいな」

「おれたちなんかただ長生きしたってだけだからなあ」

いいながらおじいさんたちは、また階段を登っていきました。だけど天国の門はぜんぜん見えません。

 しばらく行ったとき、階段のあちこちに空き缶と空のパックが捨ててありました。

「誰だい、こんなところにゴミを捨てたやつは」

「罰があたるな、どおれ拾って行こう」

 おじいさんたちが、ゴミを拾っていたとき、下の方から空っぽの気球が登ってきました。

「あれ、ゴンドラには誰も乗ってないぞ」

「おれたちが乗ってもいいのかな」

「ゴミを持って登るのも大変だから、いいさ」

「じゃあ、乗って行こう」

 おじいさんたちはゴンドラに乗ると、階段の上をふわふわと登って行きました。

 

 こちらは雲の上にある天国です。

 水晶のように透き通った御殿の窓から神さまが、おじいさんたちの様子を、さっきからじっとご覧になっていらっしゃいました。

 ふたりが空き缶と空のパックをちゃんと拾うかどうかを。もし拾わなかったら、いつまでも階段を登らせようと思っていたのです。もし空に投げ捨ててしまったら、そのまま地獄へ突き落そうとさえ考えていました。

 でも、階段のゴミをきれいに拾ったのを確認すると、満足そうなお顔をなさりながら、気球が天国へ登って来るのを楽しそうに待っていました。

  

 

 

 

 

 

 

 

 (未発表童話です)