クリスマスの重労働

 

「いやあ、今夜も寒いな。雪が降りそうだ」

 そういっているのは、町の教会の塔にぶら下がっている鐘です。ずいぶん古い教会で鐘も相当に古かったのです。

 もうすぐクリスマスなので町の商店街にはクリスマスツリーがキラキラと輝いています。でも昔と比べたら営業している店はほんのわずかです。

「町の風景もずいぶん変わったな。昔はいろんな商店がたくさん並んでいたのに、いまじゃ、ゴーストタウンだ」

 鐘がいうようにこの町の商店街は人通りが少ないのでした。

 深夜のことです。冷たい風が吹いていました。

 ギーーイ、教会の扉を誰かが開ける音がしました。

 眠っていた鐘は目を覚ましました。

「こんな夜中に誰だろう」

 扉を開けて入ってきたのは、二人のホームレスでした。あまりに外が寒いので黙って入ってきたのです。

「よかった。今夜はここで泊まろう」

「ずいぶん静かだな」

 二人は小声で話しています。

「せっかくこの町で仕事をみつけようと思っていたのにどこの店も閉店だ」

「これじゃ、正月に餅も食えないな」

 二人のお腹がグーとなりました。しーんと静まり返った教会の中は別世界です。ステンドグラスがとてもきれいで、まるでお城のようです。

「何か食べるものないかな」

「あるわけないさ。泊まれるだけでありがたいよ」

 いいながら二人は長椅子に座ってただぼんやりしていました。

 二人がウトウトしていたとき、うしろからポンポンと誰かが肩を叩きました。

「あなたたちはここで何をしてるのですか」

 うしろに立っていたのは白髪頭の神父さんでした。

「申し訳ありません。外があまりに寒いので中へ入らせてもらいました」

 神父さんに怒られると思ったのですが、

「そうでしたか、お腹が減っていますね。待っててください」

 そういって神父さんは隣りの部屋へ行くと、食パンと赤ワインを持ってきてくれました。

「これを召し上がりなさい。温まりますよ」

 二人は喜んで食べました。

「ありがとうございます。感謝します」

 神父さんはにっこり笑いながら、

「どうですか、食事を差し上げたのですから、私の願いを聞いてくれますか」

「どんなことでしょう。わたしたちに出来ることならなんでもしますよ」

 神父さんはうなずきながら、

「この教会はずいぶん古くて、あちこちガタがきています。床はギーギー鳴るし、壁も剥がれてずいぶん汚れています」

「そうですか、じゃあ修理をしますよ」

「お願いします。大工道具は倉庫にあります。クリスマスが来る前に直したいのです」

 さっそく二人は作業をはじめました。

 ギーギー鳴る床と壁の張り替えをやりました。

 作業が終わったのは明け方でした。

「神父さん、修理がおわりました」

「ご苦労さまでした。それじゃ、祭壇の床もお願いします」

「まだ傷んだところがあるんですか」

「はい、ずいぶん古い教会ですから」

 二人は作業が終わってほっとしたのですが、また神父さんに頼まれたのでやることにしたのです。

 カタン、ガタン、トントントントン、二人は汗を流しながら働きました。

 夕方、作業はおわりました。

「ありがとうございます。音がしなくなりました。お腹が減ったでしょう」

 神父さんはまたワインと食パンを持ってきてくれました。

 二人はすぐにたいらげました。

「神父さん、作業も終わったので、これでおじゃまします」

 ところが神父さんは、

「まだやってもらうことがあります。ステンドグラスを磨いてください。何年も磨いてないのでほこりがたまっています」

 二人はだんだん疲れてきたのですが、食べ物をもらったので仕方なくやることにしました。

 ゴシゴシ、ゴシゴシ、ガラスを磨きながら、二人は小声ではなしました。

「ワインと食パンもらっただけで、ずいぶんこき使われるな」

「これだったら、ビルの窓ふきのバイトの方が賃金がいいな」

「クリスマスまであと何日だっけ」

「あと二日だ」

「じゃあ、辛抱してがんばるか」 

 二日後、クリスマスイヴになりました。

 二人が教会から出て行こうとしたとき、神父さんがやってきました。

「忘れていました。塔の鐘のサビを落としてください。いい音がしません。ロープも取り換えてください」

「え、まだやらないといけないんですか」

「作業をしてくれたら、ワインと食パンのほかにハムも付けてあげますよ」

 せっかく教会から出て行こうと思っていた二人は、がっかりしました。

「やれやれ、とんだ教会へきてしまったな」

 二人はぶつぶつ文句をいいながら作業をはじめました。

 夕方、作業が終わると、神父さんがやってきて、

「これが最後です」

といって、教会の外のモミの木にクリスマスツリーを飾らせられました。

 二人はくたくたになって作業をやりました。

 クリスマスがやってきました。

 すっかり教会の中はきれいになりました。塔の上の鐘もぴかぴかに磨かれてごきげんです。

「さあ、信者さんを呼びましょう」

 神父さんは、取り換えられた新しいロープを握って、カランコロンと町中に響くように鐘を鳴らしました。

 鐘の音は、重労働ですっかり疲れてこの町から出て行く、二人のホームレスの耳にも聴こえてきました。

 

 

(オリジナルイラスト)

 

 

(未発表童話)