たいくつな仏像

 

 山のお寺に、古い大きくてりっぱな仏像が置かれていました。あまり奥深い山だったので、いつしか忘れられて、誰も拝みに来る人はいませんでした。

「ああ、たいくつだ。だれかやってこないかなあ」

 あるとき猿がやってきました。

「仏像さま。高い所からの眺めはどうですか」

「山ばかりで何も見えやせん」

 仏像は、身体を前後左右に動かしました。

「ああ、身体が凝ってしかたがない。いつも同じ姿勢でいるからなあ」

「それじゃあ、身体をほぐしてあげましょう」

  猿に肩や腕や足や腰をほぐしてもらいながら、仏像は満足そうです。

「ああ、気持ちがいい。まるで極楽じゃ」

 それがやみつきになって、週に一度は猿に身体をほぐしてもらっていました。

 ある日のことです。山道を誰か登ってきました。お寺へやってきたのは、村のお百姓さんたちでした。

 仏像は、いつものように寝そべって、猿に身体をほぐしてもらっていましたが、足音が聞えてきたので急いで身体を起こしました。あまり慌てていたので背筋を思いっきり伸ばして正座をしました。 

「ああ、これが三百年も昔に作られた仏像さまか。なんて礼儀正しい仏像さまだ」

「町へ持って行ったらみんな驚くな」

「そんじゃあ、近いうちに町へ移すことにしよう」

 お百姓さんたちが帰ったあと仏像は、

「嬉しいことじゃ、町のお寺へ行けるとなれば参拝者も多いだろう。もうたいくつすることもない」

 その年のうちに仏像は、町の大きなお寺に移されることになりました。

お寺の広いお堂に置かれた仏像は、満足そうな様子でいつも正座をして座っていました。

 このお寺には、山と違って毎日たくさんの人がやって来るので仏像はいつもニコニコ顔です。

「よかった。仏像に生まれた甲斐がある」

 だけど、いつも正座をしてるので足がだんだん痛くなってきました。

「ああ、このまま何百年、何千年もこうやって正座をしてるのもたいへんだ」

 夜になると仏像は、だれもいない静まり返ったお堂の中で、思いっきり足を伸ばしました。

「ああ、あちこちピリピリしてる。きょうも疲れた。猿がいてくれたらほぐしてくれるのになあ」

 仏像は、山のお寺のことを懐かしそうに考えていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(自費出版童話集「本屋をはじめた森のくまさん」所収)