歩く雲

 

  真夏の暑さで、頭がぼーっとしていたのだ。エアコンのない蒸し風呂のような部屋で昼寝をしてたら、巨大な雲が地面まで足を伸ばして町の中を歩いていた。形はクモそっくりだった。

「どこへいくんだろう」

 窓からじっと見ていたら、雲と目が合った。「まずい」

 雲が家に近づいてきた。大きな身体で家に覆いかぶさった。

 家がガタガタ揺れた。周りは何も見えない。そのまま雲の中へ家ごと吸い込められた。

「大変だ。逃げよう」

 でも地面まで50メートルの高さはある。飛び降りることはできない。

 そのうち雲は歩き出した。山の方へ歩いて行った。

 家が傾斜しているので山を登っているのが分かった。雲の中で揺れながら周りがひんやりしてきた。やがて頂上へやってきた。ドカンと音がして山のてっぺんに家を置いた。

 雲の中から誰か降りてきた。

「コノイエ ドウスルツモリダ」

「ナカヲシラベタイ ナニカアルニ チガイナイ」

 その声は宇宙人だった。

 二人の宇宙人が玄関の戸を開けて入ってきた。おれは押入れの中へ隠れた。

「ダレモイナイミタイダ」

「キタナイ ヘヤダナ。ゴミダラケダ」

 宇宙人たちは、タンスの中を開けたり、机の引き出しを開けたり、何か探している。パソコンを見つけると電源を外して運び出した。

「コレヲ アトデシラベヨウ」

 宇宙人たちは、ほかに何もないのがわかると家から出て行った。

 山のてっぺんに洞穴があり、宇宙人たちが入っていった。おれもあとからついていった。

 洞穴の中にエレベーターがあり、地下はずいぶん深かった。この山の内部は宇宙人たちの秘密基地だった。

 地下にいろんな部屋があり、どれも倉庫だった。町から盗んできた物がたくさん入れてあった。

 廊下の向こうから宇宙人が歩いてきた。

「アシタ ガソリンヲウバイニイコウ。キュウユガオワッタラ イヨイヨキカンダ」

「ナツカシイホシヘ カエレル」

 翌日、雲の宇宙船は町へ行ってタンクローリーを10台くらいうばってきた。

 すぐに宇宙船にガソリンを給油してエンジンをかけた。

「宇宙へ逃げるつもりだな。町へ行ってみんなに知らせよう」

 急いで山を降りてみんなに知らせに行った。でもだれも信じてくれなかった。

 途方に暮れていると、空の上をクモの形をした宇宙船が空の彼方へ飛んで行った。

宇宙船の窓から二人の宇宙人の顔が見えた。

 そのとき目覚まし時計のベルが鳴った。

「変な夢をみたものだ。さあ、バイトへ出かけよう」

  勤めている近くのガソリンスタンドへ歩いて行った。今日は遅番だった。

 

 

 

(オリジナルイラスト)

 

 

(未発表童話)