空から白い階段

 

 春のある日、自転車に乗って外へ絵を描きに行った。いつも部屋の中で絵を描いているけど、やっぱり外へ出た方が描くものがいろいろある。

 田舎道を走りながら、何を描こうかとあちこち眺めながら走っていた。野原から見た桜並木の絵を描こうかな、それとも川のほとりへ行って、菜の花畑の絵を描こうかなとか考えてた。

 一時間も走りながら、まだ描くものが決まらなかった。昨夜は夜遅くまで童話のイラストを描いていたので、なんだか眠くなってきた。

道の向こうに小さな原っぱがあった。木のそばに自動販売機が立っている。

「あそこでジュースを買おう」

 ガチャン。お金を入れてジュースが出て来た。喉が渇いていたのでそばの原っぱの木の下に座って飲んだ。天気は申し分なくよい。

空をぼんやり見上げているうちに眠くなってきた。

「ああ、何を描こうかな・・・」

ウトウトしながら、やがて眠ってしまった。

しばらくしてから、頭の上でさーっと風が吹いた。風に運ばれていい匂いがしたので目が覚めた。空を見上げると驚いた。

「あれっ、階段だ」

 空から白い階段が降りてきたのだ。だけどそれだけではなかった。

階段の上に誰か座っている。ピンク色の帽子をかぶった女性だった。

 階段は目の前まで降りて来た。

「モデルになってあげましょうか」

女性はいった。

「君は誰だ」

「わたしは春の女神です」

ピンク色のワンピースを着た女神なんているのかなと変に思ったけど、

「じゃあ、あなたをスケッチします」

といって、さっそくスケッチブックと色鉛筆を取りだして描きはじめた。

 一枚目は正面から女性を描いた。背景の雲の中まで伸びている白い階段が実に神秘的だ。描き終えると、構図をいろいろ変えて二枚目、三枚目と描いていった。

 夢中になって描いていると、女性が雲のベンチへ行ってみないかと誘ったので行くことにした。女性の後を追って、階段を登って行った。

 雲の上に辿り着くと、雲のベンチに腰かけた女性を描いた。雲の隙間から見える背景の青空と山並みがとても美しい。いくらでも絵が描けるのが不思議だった。

 描いているうちに、女性の服装が変わっていった。ギリシャ神話の女神のような白いドレスになった。この衣装なら春の女神に見える。

 同時にまわりの雲が桜の木に変わったり、雲の地面には白いスミレの花や、白い菜の花やタンポポの花が咲いていた。

 夢のような景色なので、夢中になって描いているうちにスケッチブックの紙がそろそろ足りなくなってきた。それくらいたくさんの春の雲の景色を描いたのだ。

 あまり夢中になっていたので、足元に雲の切れ間があることに気づかなかった。

 片足が切れ間に入り込んだとたんに、身体が大きく揺れて地上に向かって落下して行った。

「あっー!」

 気がついたとき、さっきの原っぱの木の下で眠っていた。

「ああ、不思議な夢だった。でもいい夢だったな」

 スケッチブックを開いてみると何も描かれていなかった。だけど家に帰ってから、夢の中で観た春の雲の景色と女神の姿をたくさん描いた。

 

 

 

 

(オリジナルイラスト)

 

 

 

 

(未発表童話です)