恐怖の島

 

 ある科学者が、孤島にひとりで住んでいた。八年も世間から遠ざかって、AIロボットの研究と制作に取り組んでいた。毎日研究室に閉じこもって、これまでいろんなロボットを作った。

 あまり忙しいので、食事も洗濯も掃除も出来なかった。

 そんな訳で、一台ロボットを作った。AIを取り入れた奥さんロボットだった。

「仕事をしてる間、このロボットが家事を全部やってくれるだろう」

 科学者が思ったとおり、ロボットは毎日よく働いた。

 昼になると、ちゃんと昼食が用意されているし、夕食もしっかり出来ていた。

 でも不満なこともあった。味がよくないのだ。みそ汁なんかすこしも美味くなかった。漬物もずいぶん辛かった。奥さんロボットは電気しか食べないので、本当の味は出せないのだった。

「仕方がないな」

 科学者は文句も言えなかった。

 だけど、日に日に味は悪くなる一方だった。たびたび小言をいううちに、奥さんロボットはとうとう怒りだした。しまいにまずい物ばかりを食べさせるようになった。

「部品に不良品があったのかな。設計図どおりに作ったのに」

 そんなある日、ロボットが家からいなくなった。

「どこへ行ったのだろう」

 ボート小屋へ行ってみたが、ボートは中にしまってある。

「島のどこかにいるはずだ」

 島の中をあちこち調べたが、ロボットは見つからなかった。

 ある日、研究室で仕事をしていたとき、窓ガラスに奥さんロボットの姿が見えた。中を覗いていた。

「帰ってきたんだ。どこへいってたのだろう」

 奥さんロボットは、前のように働きはじめたが、研究室へよくやってくるようになった。研究室の器具や部品に興味があるみたいだ。

 それからだった。恐怖を感じるようになったのは。

 夜眠っていると、台所から何かを研いでいる音が聞こえてきたり、研究室の明かりがついていたり、カチン、カチンと何かをセットする機械音が聞こえてきたり、奇妙なことがたびたび起きた。

 科学者は、命の危険を感じはじめた。仕事どころではない。早くこの島から逃げないといけない。

 まだ夜が明けきらない翌朝、ボート小屋へ行ってみたが、ボートは船外機が壊されていてエンジンがかからない。

「ロボットが壊したんだ」

 家に戻った。研究室の窓に明かりがついている。

 窓辺へ行って中を覗いてみた。

「なんてことだ」

 研究室で奥さんロボットがエアーガンを手に持っている。そばのパソコン画面には3Dプリンターで制作したエアーガンの画像が写っている。

「自作したんだ。困った。あんな強力なエアーガンだったら、殺傷力は十分にある」

  命を狙われる前に、どこかへ隠れないといけない。

 そのとき思いついた。

 この島には洞窟があるのだ。島の裏側の沼地のそばだ。しばらくその洞窟に隠れることにした。林道を歩いて洞窟へ向かった。

 夜、真っ暗な洞窟の中で眠っていると、草を踏む音がしたので目が覚めた。

 洞窟の外に誰かいる。懐中電灯を洞窟の中へ向けて照らしている。

「ロボットだ」

 音を立てないようにじっとしていた。光は向こうへ行った。

 翌日も、洞窟の中にいた。午前中と午後に、ロボットがやってきて洞窟の中を覗いて行った。

 ロボットがいなくなってから、ふと思いついた。

「そうだ、バッテリーが切れたらロボットは動けなくなる。10日前に充電したから、明日中に切れるはずだ。発電機を止めてしまえばもうロボットは動けなくなる」

 発電機は家のとなりの小屋にある。

 夜になってから洞窟を出ると、家へ向かった。途中、林の中でライトの光を何度も見た。

 家に帰ってくると、庭のそばの発電機の小屋に行った。いつも鍵は掛かっていない。小屋の中へ入ると、配線を切ってしまった。

「これでもう電気は使えない」

 小屋を出ると、洞窟へ引き返した。

 翌朝、雨が降っていた。

「家に戻ってみよう」

 雨の中、林道を歩いて行った。沼のそばを通ったとき、木のうしろから黒く尖ったものが見えた。銃口だった。

 急いでその場から離れた。そのとき足が滑って沼の淵へ転げ落ちた。身体の半分が沼の中へ引き込まれた。両手で必死に草につかまった。

 木のうしろから奥さんロボットが現れた。

 近づいてきて、エアーガンの銃口を、科学者の方へ突き付けた。

「もうだめだ」

 どしゃぶりの雨は降り続いている。

 ロボットは引き金に指を入れた。

 そのときだった。ロボットの動きが遅くなった。奇跡が起きた。電池が切れたのだ。

 ロボットはその場に突っ立ったまま動かなくなった。

 

 

 

(オリジナルイラスト)

 

 

 

(未発表童話です)