虹の糸

 

 貧しい男がいた。山の原っぱでひとりで暮らしていた。

 ある日、雨が降ったあと外へ出てみると、虹のはしらが家の庭まで伸びていた。

「ふしぎなことだ。どうしてだろう」

 よく見ると虹のはしらの一か所から細い糸が伸びている。

「そうだ、あの糸でセーターを作ろう」

 裁縫などしたことがなかったが、なんとか自分なりに作ってみた。

 その服は水色で着心地が良くて美しくとても軽かった。

 ある日男は村へ買い物に出かけた。

 村の人々は、いつも薄汚いよれよれの服を着ていた男をみて驚いた。

「どこであんなおしゃれな服を手に入れたんだ」

「どこかで盗んできたのかな」

 村の人は口々に言いあった。

 ある日、男が赤色の服を着て村へ行くと、洋服屋のおかみさんがそれを見つけて、

「なんて鮮やかな赤色のセーターだ。あんな素敵な色をした糸を手に入れたい」

 おかみさんは男を呼び止めて尋ねた。男は、

「じゃあ、少し分けてあげよう。明日山へ来てくれ」

 翌日、おかみさんは山の家に行った。

 男は物置にしまってある糸をおかみさんに安く売ってやった。

でも、男はどこから仕入れたのかいわなかった。

 村へ帰って来たおかみさんはさっそくその糸で服を作りはじめた。

 出来上がると、店に並べて売ることにした。

 思った通り服はよく売れた。売り上げも伸びた。

 ある日、お客からこんなことを聞いた。

「あの服を着ると、身体が軽くなってふわふわ浮くのだ。ふしぎな服だ」

 その噂はあちこちに広まり、となり村からもつぎつぎにお客がくるようになった。

 とくに肥った人や病人にはよく売れた。普段、身体が重くて出不精だった人も出歩くようになった。山へハイキングに出かける人もいた。病人たちもその服を着てよく外出した。

 だからこの村ではだれでもその服を着ていた。だけど子供だけは着れなかった。

 身体が軽いものだから空へ浮かんでしまうからだ。

 でも、子供たちは考えた。ランドセルに石を詰め込んで学校へ行った。遊びに行くときもランドセルを背負って行った。だから村の子供たちもみんな着るようになった。

 

 

 

(オリジナルイラスト)

 

 

 

(未発表童話)