カニの床屋さんの失敗

 

 竜宮城の竜王さまが、ある日、家来のタコにいいました。

「明日の夜、竜宮にお客がみえるから、床屋を呼んできてくれんか。何年も切っとらん頭をさっぱりさせたい」

「はい、竜王さまかしこまりました」

 タコは、さっそく浜へ行きました。

浜につくと、(カニの床屋)と書かれたたくさんのお店がありました。

 タコは一軒、一軒お店をまわって、用件をいいました。

「はい、承知しました。ではさっそくまいります」

 タコに案内されて、カニの床屋さんたちは、みんな竜宮城へ行きました。

「いやあ、来てくれたか。ごくろう、ごくろう。ではさっそくチョッキン、チョッキンをたのむよ」

 竜王さまは鏡の前にふかぶかと腰かけました。

「では、さっそくはじめます」

 カニの床屋さんたちは、頭の上によじ登ると、チョッキン、チョッキンと軽快な音をたてて散髪をはじめました。

 だけど、竜王さまの頭はカニたちの何十倍もありますから、髪を切るのもずいぶん時間がかかります。

 夕方になって、その日は半分だけ仕事が終わりました。

「みんなごくろうだったな。残りの分は明日にまわすことにして、今夜は竜宮でゆっくりくつろいでくれ」

 日が沈んでから、カニの床屋さんたちは竜宮城の夕食会に招待されました。

深海のめずらしい魚料理を食べたり、きれいな女中さんにお酌をしてもらって、ずいぶんお酒も飲みました。その夜はみんなぐでんぐでんに酔っぱらって、口からプクプク泡を吐きながら、すぐに眠ってしまいました。

 朝になって、みんな仕事の続きをはじめました。

 ところが、昨夜のお酒がまだ残っているようで、チョッキン、チョッキンの音も軽快ではありません。中にはウトウトと居眠りしているカニもいて、なかなか仕事もはかどりません。

 そんなことなど知らない竜王さまは、昼寝をしながら楽しそうに待っていました。

 夕方になって、家来のタコがやってきました。

「竜王さま、お客さまがお見えになりました」

 目を覚ました竜王さまは、

「そうか、お通ししてくれ」

といって、鏡に写った自分の顔を観ました。

「なんじゃあ!この頭はー!」 

 竜王さまは本当に驚いてしまいました。

頭髪のところどころがまだら模様になっていて、長さも滅茶苦茶で、まるでトラの毛皮のようです。

 竜王さまは、タコを呼び寄せると、すぐにカツラを持ってくるように命じました。こんな頭ではとてもお客さんに会うわけにはいきません。

 翌朝、カニの床屋さんたちは、しょんぼりした顔で浜へ帰ってきました。みんな床屋の看板を取り外すと店を閉めました。竜王さまから床屋の営業許可を永久に取り消されてしまったからです。

 カニたちは別の仕事を探しましたが、床屋さんほどぴったりの仕事はなかったので、どんな仕事についても長続きせず、今でも浜をぶらぶらしているのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(自費出版童話集「本屋をはじめた森のくまさん」所収)